エミリィ・ディキンスン資料センター便り【2022年12月】

2022(令和4)年12月の「エミリィ・ディキンスン資料センター便り」
The Whisper from Amherst~エミリィのささやき~ 
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エミリィの詩に出会って、約10年の月日が経ちます。始めは、「死」をテーマにした詩を好きになれず、美しいもの、かわいらしいものに興味が湧きました。しかし、その間、私も大切な友人等とお別れをせざるを得ないことが少なからずあり、時にはエミリィの詩に救いを求めたりもしました。


There’s something quieter than sleep

There’s something quieter than sleep
Within this inner room!
It wears a sprig upon its breast-
And will not tell its name.

Some touch it, and some kiss it-
Some chafe its idle hand-
It has a simple gravity
I do not understand!

I would not weep, if I were they-
How rude in one to sob!

Might scare the quiet fairy
Back to her native wood!

While simple-hearted neighbors
Chat of the “Early dead”‐
We‐prone to periphrasis,
Remark that Birds have fled!

眠りより静かなものが
この奥まった部屋を漂っている
その胸の上に一本の小枝がおかれている
でも自分の名前は告げない

触れる人、キスをする人
もう動かない片手をさする人
私にはわからない素朴な
重々しさが漂っている!

私がこの部屋の人なら、涙を流して悲しまない
すすり泣くのもひどく失礼!

寡黙な妖精をこわがらせ
彼女の生れ故郷の森へおいかえしてしまうかも!

純朴な隣人たちが言いあっている
「幼くして亡くなるなんて」と
婉曲表現がこの土地の習慣だから
小鳥が飛び去ったと、言えばいい!
(訳: 東 雄一郎 「完訳 エミリ・ディキンスン詩集」 より)


1858〜59年頃の作品です。
  幼い子供が死を迎え、周囲の人々は幼い命の終焉を嘆き悲しむという当然の営みに、エミリィは一石を投じています。
死者、死後の世界に関する考え方は文化や宗教などによって大きく異なります。更には、その時代によっても異なりがあるようで、ヴィクトリア女王がイギリスを統治していたヴィクトリア朝時代(1837
1901)、イギリスは死者をまるで生きているかのように見せかけ、記念撮影をする遺体の記念写真
(ポストモーテム・フォトグラフィー)が流行していたそうです。
当時は、「死」は今よりも身近なものであり、病院よりも自宅で最期を迎えることが多かった時代です。乳幼児死亡率も高く、我が子を亡くした親が死の恐怖を和らげ、愛する者の死を乗り越えていくためにも、故人の安らかな死に顔を写真に収めることは、ある意味セラピーのようなものだったのでしょうか。
4フレーズ目に“dead”(死)ということばを使うまで、エミリィは死を婉曲表現しています。答えが最後に登場する「なぞなぞ」的なriddleと呼ばれるエミリィの得意とする手法です。 Nellie’s Mom

                         

       亡くなった兄と記念撮影                              かごから飛び立つ小鳥                  旅立つ子供になす術のない両親
     (ディキンスン家ではない)