エミリィ・ディキンスン資料センター便り【2022年11月】

2022(令和4)年11月の「エミリィ・ディキンスン資料センター便り」
The Whisper from Amherst~エミリィのささやき~ 
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ハロウィーンが終わり、晩秋の落ち着きが戻って来ました。悪霊を追い払うために恐ろしい顔に彫られたオレンジ色のカボチャも姿を消して、今は軒先の吊るし柿が枯草色の秋に彩りを添えてくれています。
さて、悪霊や不吉な物に化けるためのハロウィーンの仮装衣装といえば、白、紫、黒が代表的ですが、黒は魔女、クロネコそしてコウモリなどに化けるために用いられます。エミリィが小さき物たちを愛したのは言うまでもありませんが、そのコウモリをもエミリィは鋭い観察力をもって詩にしてしまいました。


‘The Bat is dun with wrinkled wings’

The Bat is dun with wrinkled wings
Like fallow article,
And not a song pervades his lips,
Or none perceptible.
   
His small umbrella, quaintly halved,
Describing in the air
An arc alike inscrutable,
Elate philosopher!
   
Deputed from what firmament
Of what astute abode,
Empowered with what malevolence
Auspiciously withheld.
   
To his adroit Creator
Ascribe no less the praise;
Beneficent, believe me,
His eccentricities.


蝙蝠は暗褐色で 休閑地の作物に似た
皺だらけの翼をもっている
その唇からは歌ひとつもれず
また耳にできる歌もない

小さな傘は奇妙に二つに割れ
得意満面の哲学者よろしく
測り知れない弧を
空中に描くのだ

どんな天から命じられ
どんなずる賢い住家の代理人にされ
幸いにも中止された
どんな悪意によって力を附与されたのか

やはり蝙蝠をつくった巧みな神に
賞讃の言葉を贈ろう
確かに神の奇癖は
有益な場合もあるのだから (訳: 中内 正夫 「エミリ・ディキンスン 露の放蕩者」 南雲堂 より)

民家や町中に住み着いているコウモリはかなり迷惑な存在で、駆除の対象にもなってしまうコウモリですが、岩手の岩泉町にある鍾乳洞、龍泉洞には5種類のコウモリが生息しています。そこでは毎年12月に「コウモリぅおっちんぐ」というイベントを開催しています。冬眠中なので測り知れない弧を描いてはくれませんが、その分じっくり観察できるそうです。
この冬はエミリィが言うように、賞讃の言葉を贈るに値する、神様がお創りになった創造物を見に行ってはいかがでしょうか。
Nellie’s Mom

                                   
               龍泉洞で冬眠中のコウモリ                  ハロウィーンコスチューム                             得意満面の哲学者?