エミリィ・ディキンスン資料センター便り【2022年05月】

2022(令和4)年5月の「エミリィ・ディキンスン資料センター便り」
The Whisper from Amherst~エミリィのささやき~ 

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エミリィの詩で、生前に出版された詩がたったの10編であるのはあまりに有名な事実です。日本エミリィ・ディキンスン学会の鵜野ひろ子氏が訳したエミリィ・ディキンスン事典によりますと、1852年から1866年までの間のことであり、どれもエミリィから出版をもちかけたのではなく、特にもそのいくつかについては第三者を通して編集者に届いたという証拠が見つかっています。
エミリィが出版しないことを選んだその裏付けとなる心理が表現されている詩を紹介します。

‘Publication-is the Auction’

Publication-is the Auction  
Of the Mind of Man-
Poverty-be justifying
For so foul a thing  

Possibly-but We-would rather   
From Our Garret go      
White-Unto the White Creator-  
Then invest-Our Snow-     

Thought belong to Him who gave it
Then-to Him Who bear         
It‘s Corporeal illustration–Sell    
The Royal Air-                     

In the Parcel-Be the Merchant
Of the Heavenly Grace-        
But reduce no Human Spirit     
To Disgrace of Price-         

出版とは人の心を
競売にかけること
貧困の方が、こんなに卑しいことより
正当化されるだろう、多分

それより私たちはむしろ
屋根裏部屋から
白いまま、白い創造主のところへ赴きたい
自分の雪に投資するくらいなら。

思想はそれを生み出した主のところのものだから
それなら、それを形で示したものを
示す人に対して、売りなさい
その高貴な歌を、包みにつつんで。

天の恩寵を扱う商人でありたい。
でも、人の精神を
価格という不名誉に
貶めてはダメ。
(訳: 大西 直樹 「エミリ・ディキンスン アメジストの記憶」 彩流社 より)

この作品が書かれるまでに、すでにエミリィによる2つの詩がマサチューセッツ州の朝刊スプリングフィールド・リパブリカン紙に掲載されています。しかもディキンスン家の親しい友人である編集者サミュエル・ボウルズ(1826-1878)によりかなり大胆な変更が加えられていました。
スプリングフィールド・リパブリカンは、当時ボストン以外のニューイングランドで発行される新聞の中で最も発行部数が多く、アメリカ中に定期購読者がいる「この大陸でこれまでに発行された全国版のなかで、最良で、もっとも影響力のある新聞」といわれた新聞でした。エミリィ自身も毎晩、政治的なニュースや意見だけでなく、芸術、文学、宗教、科学またその他多くの当時の興味深い事柄の動向についての記事を読んでいました。しかし、個性を削がれた校正に対し非常に憤りをおぼえたことが出版を拒んだ1つの理由ですが、この詩に書かれているように、詩で金銭を得ることに強く抵抗を感じていました。人の創造力は神からの贈り物であり、それを金銭のやりとりで汚したくないという強い思いがありました。その強い信念が現れている作品の1つでもあります。
Nellie’s Mom


      
    
アメリカで販売されている楽譜    ケネディ氏の翻訳本          イメージ画